『いいかい?
例え、何があってもあちらに行ってはいけないよ』
白い病室のような部屋に置かれたベットに、横になっている黒髪の男の人が
顔を横に向けながら言った
優しい眼差しの先には5歳くらいの少女が佇んでいる
少女は男性の寝ているベットへ近づいた
すると男性は手を伸ばし、白くふっくらとした少女の幼い手を優しく包んだ
少女の目からは涙が溢れている
『とー様、…とー様……』
少女は震える声で呟いた
きっと、この男性が女の子のお父さんなんだ…
でも、あたしはこの二人を知っている…?
男性は空いてるもう一方の手を少女の頬に這わせた
慰めるように、涙を拭くように、少女の顔を撫でていく
『ああ、泣いてはダメだ。笑顔でいなさいと言っているだろう?』
『でもっ、…うう…、とー様が居なくなったら、あたしは一人ぼっちだもん……』
絞り出すように、切なげに
少女は父の顔を目に焼き付けながら言った
だけど男性は、更に笑みを深くして少女を見る
『大丈夫だよ。安心しなさい。私はずっと……を守っているから
……は一人じゃない』
あれ?所々が聞こえない…
待って、行かないで…
すると少女と男性の姿が、だんだん闇に包まれていって……
辺りは真っ暗になった
「…ん………?」
リンは瞳を開けた
見えたのは、黄色いベットの天蓋の天上で、白い病室の跡形もない
顔を少し横に向けて、仕切られたカーテンの向こうに目を向ける。辺りは明るい。
何処からか微かに、ガヤガヤとした人の声が聞こえた。
「夢…だったんだ」
それにしては、鮮明な絵だったんだけどな…
まだ、夢の映像の所為でぼんやりと覚醒出来ない頭を、何とか働かせる
昨日はハリーと大広間で別れて、マリアの話を散々聞いて、念入りにパーティーの…
パーティー?なんだっけ…
―――今日は……、っクリスマス!?
「どうしようっ!寝坊したっ!?」
そう思った瞬間、考えるよりも早く、手が自分の体温の残る暖かい毛布を剥いだ。
すると、一気に体中に冬の刺すような冷たい冷気が触れる。
あまりの寒さに鳥肌と震えが襲ってきたけれど、今はそれどころじゃない。
周りを仕切るカーテンを開けて、周りを見るけれど、全てのベットはもぬけの殻だった。
まだ誰か寝ているんじゃないかという期待は、見事に打ち砕かれた。
とりあえず、ベットから抜け出して洗面台に向かい鏡を見て、身なりを確かめる。
幸か不幸か、いつもどうりだ。
軽くため息をつきたい気分になった…。一日で可愛くなる訳は無いのだが…。
思わず物思いにふけってしまったが、何とか気を取り戻す。
今は談話室に人が居るかどうかが問題だ!
やや自棄になりながらバッと寝巻きの上に羽織るカーディガンを取り、乱暴に腕を通す。
すると、
「あっ、リン!おはよー」
「へ?」
間の抜けた声が出た。
自室の入り口の方を見ると、寝巻きにカーディガンという
まさに今の自分と同じ様な格好で、扉を開けたままの形で立っているマリアが居た。
「何してたのよ?もう皆はプレゼントを見に談話室に居るわよ?」
「プレゼント?」
「もうっ、降りて来ないと思ってたら、プレゼントを忘れてるなんて!」
―――プレゼントどころか、クリスマスも忘れてました…、なんて言えない……
そう思うと冷や汗が背中に滲んだ。
マリアは怪訝そうにリンを見ていたが、ふうっとため息をついて呆れた声を出した
「何でも良いわ。リンにもプレゼント来てたわよ。
確認しなくて良いの?」
「勿論見るっ!」
リンはプレゼントという言葉に目を輝かせた。
クリスマスのプレゼントを確認しないなんて、ありえない。
すぐさまマリアの腕を掴んで、談話室への階段を駆け下りた。
談話室にはほとんどの生徒がプレゼントを見て、歓声を上げている。
リンは自分のプレゼントが置かれている場所を見つけて
マリアの腕を離してから、そこに座った。
―――マリアもそのまま隣に座ったから、彼女の山もきっと側にあるんだろう
リンは気を取り直してプレゼントの山を見た。
どれもこれもカラフルで、目移りしてしまう。
だけど、黒い箱に真っ白のレースのリボンが巻かれた小さな箱が目に入った。
リンはおもむろにその箱に手を伸ばした。
そしてゆっくりリボンを解いて、慎重に箱を開けた。
一枚の紙切れが中に入っていて、その下には綺麗に輝くネックレスが見えた。
薔薇を模った純銀の花の真ん中に、キラキラ輝くルビーが嵌めてある。
―――こんな高そうなの…、誰だろう……?
少し訝しげに、入っていた紙を開いた。
流暢な美しい筆記体の文字が綴られている。
リンはその文字を目で追って一字ずつ、しっかり読んでいった。
読み終えたとき、リンは例えようも無く嬉しさが込み上げてきて、笑っていた
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Merry X'mas
今夜六時、君を迎えにあがろう
その時、首元にこの薔薇が輝いている事を願っている
地下階段の柱の影で
―― From Your Partner
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