「わぁお!リン、あなた別人みたいよ!」


鏡に写っている自分の姿の後ろに、マリアが写っているのが見えた。
リンは後ろを振り返る。
すると本物のマリアが淡いブルーのドレス姿で立っていた。
胸元が控えめに開かれていて、大人っぽい雰囲気が出ている。


「マリアも素敵!」
「あら、ありがとう」


フフッと笑うマリアは本当に綺麗だった。
ついついマリアの姿と、自分の姿を比べてしまう。
リンはふうっとため息を漏らした。
それに気付いたマリアが眉を寄せながらリンの方へ近づいてくる。


「どうしたのよ?今から楽しいパーティーなのよ?」
「だって…、あたし子供っぽくない?先生の隣を歩くのに……」


リンは俯く。
子供っぽいあたしと、大人な先生じゃ不釣合いなんじゃないか...
こう考えてしまうと、リンは気分が下がってきてしまうのを止められなかった。


「……あなたって馬鹿ね。」
「え?」


だけどその考えはマリアの発言によって、打ち切られた。
リンが顔を上げると、マリアは呆れたように笑っていた。
リンは一体何がそんなに可笑しいのか、さっぱり分からず首を傾げる。
そんなリンの様子を見て、マリアは笑いながらリンを鏡の方向に向かせた。
鏡に映った情けない自分の顔がリンの目に入る。


「さぁ、しっかり見なさい!」


有無を言わせないマリアの声が響いた。
思わず背筋を伸ばして、リンは自分の姿と向き合った。

キャミソール型で、レースがふんだんに用いられている純白のドレス
胸元から足先にまで描かれている淡い花びらの模様
裾は、ひらひらと金魚の尾ひれの様に揺れていて
両手には肘にかけてまで白い手袋が嵌められていた。
髪は結い上げられ、ウィッグでボリュームを出して、化粧も薄く施している。


そして、首元には……ルビーが輝く薔薇のネックレス


マリアは鏡を真剣に見ているリンを、笑いながら見ていた。
いつもはそんなマリアを軽く咎めるリンだったが、今は気が付いていない。
そんな様子に、更に笑いを深めながらマリアは言った。


「とても素敵よ。子供っぽいなんてとんでもないわ!
 もしもあなたと先生を笑う奴がいたら、あたしが吹き飛ばすわよ。」

――もちろん先生と一緒にね。


あえて口にするのを控えた言葉を思いながら、マリアは笑った。
するともう一つの笑い声が響く。
マリアがリンを見ると、リンは飛びっきりの笑顔を浮かべながら笑っていた。


「ありがとう!マリア!!」
「ふふっ、どーいたしまして。
さっ、あたしケビンと談話室で待ち合わせしてるの!行くわよ!」
「うん!」


二人は、顔を見合わせて笑い合った。
そして手を繋ぎながら談話室へ降りて行った。








談話室では、既に着飾った生徒達が、恋人や友達と話に花を咲かせていた。
生徒達が興奮している所為か、談話室が暑い。


「あっ!マリア!リン!」
「ケビン!!」


熱気の中に巻き込まれまい、と部屋の角の方に非難したら、ケビンがやって来た。
紺色のドレスローブを着込んだケビンは、いつもと違うように見える。
マリアもそう思ったのか、興奮してケビンを褒めていた。
ケビンもマリアのドレス姿を褒め称えながら、満更でもない様に照れていた。
そんな幸せそうな二人の様子を見て、思わず笑みがこぼれる。


「あっ、リンっ!」
「!?」


いきなり、後ろから声を掛けられて、リンは振り返った。
そこには黒のドレスローブを着て、正装しているセドリックが立っていた。
いつもの美男子が、更に強調されている。


「セドリック!わぁ、すごく格好良い!!」
「ありがとう、リン。君もとても素敵だよ。最初リンだと分からなかったよ。」
「ありがとう!」


ニコニコと二人で笑い合う。
するとセドリックは、ふと何かに気が付いた様に動きを止めた。
セドリックの不思議な行動に、思わずリンはキョトンとセドリックを見つめた。
セドリックはリンの首元に手を伸ばした。

指の先には、薔薇のネックレスがある。


「もしかして、今日のパートナーからのプレゼントかな?」

―――セドリックって目敏い…
「…そう、だけど……」
「ずっと前から気になっていたんだけど、リンのパートナーって誰なんだい?」
「えっ!?えっと……、セドリックのパートナーは誰なの!?」
「僕の?」


リンはとりあえずセドリックに話をふった。
自分から言うのは、まだ少し勇気が要る。
セドリックは、話をふられたにも関わらず笑顔で答える。


「僕のパートナーは、レイブンクローのチョウ.チャンだよ。ほら、シーカーの。」


名前を言われてもピンと来ない顔をしていた所為か、セドリックは説明を付け加える。
すると、ようやく誰の事かリンは認識した。
東洋出身の綺麗な女の子の事を思い出した。


「ああ、分かった。とてもお似合いだと思う!」
「ありがとう。僕は代表選手だから、最初に皆の前で踊らなくちゃダメなんだよ。」
「あ、そっか。セドリック、頑張って!」
「うん。それで、リンのパート…「セドリック!!寮監が呼んでたぞ!」


セドリックの言葉は、寮の入り口付近に立っている男子生徒に遮られた。
セドリックは困った様に眉を寄せた。


「ああ、もう時間みたいだ。それじゃ、後で紹介してくれよ。」


そう言ってセドリックは手を降りながら、寮の入り口へ向かって消えていった。
リンも笑顔で手を降って、セドリックを見送った。






すると、ホグワーツに、五時半の鐘が響いた。



『いいかい?
 例え、何があってもあちらに行ってはいけないよ』


白い病室のような部屋に置かれたベットに、横になっている黒髪の男の人が
顔を横に向けながら言った
優しい眼差しの先には5歳くらいの少女が佇んでいる
少女は男性の寝ているベットへ近づいた
すると男性は手を伸ばし、白くふっくらとした少女の幼い手を優しく包んだ
少女の目からは涙が溢れている


『とー様、…とー様……』


少女は震える声で呟いた
きっと、この男性が女の子のお父さんなんだ…
でも、あたしはこの二人を知っている…?


男性は空いてるもう一方の手を少女の頬に這わせた
慰めるように、涙を拭くように、少女の顔を撫でていく


『ああ、泣いてはダメだ。笑顔でいなさいと言っているだろう?』

『でもっ、…うう…、とー様が居なくなったら、あたしは一人ぼっちだもん……』


絞り出すように、切なげに
少女は父の顔を目に焼き付けながら言った

だけど男性は、更に笑みを深くして少女を見る


『大丈夫だよ。安心しなさい。私はずっと……を守っているから
 ……は一人じゃない』



あれ?所々が聞こえない…
待って、行かないで…


すると少女と男性の姿が、だんだん闇に包まれていって……

辺りは真っ暗になった














「…ん………?」

リンは瞳を開けた
見えたのは、黄色いベットの天蓋の天上で、白い病室の跡形もない
顔を少し横に向けて、仕切られたカーテンの向こうに目を向ける。辺りは明るい。
何処からか微かに、ガヤガヤとした人の声が聞こえた。

「夢…だったんだ」

それにしては、鮮明な絵だったんだけどな…


まだ、夢の映像の所為でぼんやりと覚醒出来ない頭を、何とか働かせる



昨日はハリーと大広間で別れて、マリアの話を散々聞いて、念入りにパーティーの…
パーティー?なんだっけ…

―――今日は……、っクリスマス!?


「どうしようっ!寝坊したっ!?」


そう思った瞬間、考えるよりも早く、手が自分の体温の残る暖かい毛布を剥いだ。
すると、一気に体中に冬の刺すような冷たい冷気が触れる。
あまりの寒さに鳥肌と震えが襲ってきたけれど、今はそれどころじゃない。
周りを仕切るカーテンを開けて、周りを見るけれど、全てのベットはもぬけの殻だった。
まだ誰か寝ているんじゃないかという期待は、見事に打ち砕かれた。
とりあえず、ベットから抜け出して洗面台に向かい鏡を見て、身なりを確かめる。

幸か不幸か、いつもどうりだ。

軽くため息をつきたい気分になった…。一日で可愛くなる訳は無いのだが…。
思わず物思いにふけってしまったが、何とか気を取り戻す。
今は談話室に人が居るかどうかが問題だ!
やや自棄になりながらバッと寝巻きの上に羽織るカーディガンを取り、乱暴に腕を通す。
すると、


「あっ、リン!おはよー」

「へ?」


間の抜けた声が出た。
自室の入り口の方を見ると、寝巻きにカーディガンという
まさに今の自分と同じ様な格好で、扉を開けたままの形で立っているマリアが居た。


「何してたのよ?もう皆はプレゼントを見に談話室に居るわよ?」
「プレゼント?」
「もうっ、降りて来ないと思ってたら、プレゼントを忘れてるなんて!」

―――プレゼントどころか、クリスマスも忘れてました…、なんて言えない……


そう思うと冷や汗が背中に滲んだ。
マリアは怪訝そうにリンを見ていたが、ふうっとため息をついて呆れた声を出した


「何でも良いわ。リンにもプレゼント来てたわよ。
 確認しなくて良いの?」

「勿論見るっ!」

リンはプレゼントという言葉に目を輝かせた。
クリスマスのプレゼントを確認しないなんて、ありえない。
すぐさまマリアの腕を掴んで、談話室への階段を駆け下りた。
談話室にはほとんどの生徒がプレゼントを見て、歓声を上げている。
リンは自分のプレゼントが置かれている場所を見つけて
マリアの腕を離してから、そこに座った。


―――マリアもそのまま隣に座ったから、彼女の山もきっと側にあるんだろう


リンは気を取り直してプレゼントの山を見た。
どれもこれもカラフルで、目移りしてしまう。

だけど、黒い箱に真っ白のレースのリボンが巻かれた小さな箱が目に入った。

リンはおもむろにその箱に手を伸ばした。
そしてゆっくりリボンを解いて、慎重に箱を開けた。
一枚の紙切れが中に入っていて、その下には綺麗に輝くネックレスが見えた。
薔薇を模った純銀の花の真ん中に、キラキラ輝くルビーが嵌めてある。


―――こんな高そうなの…、誰だろう……?


少し訝しげに、入っていた紙を開いた。
流暢な美しい筆記体の文字が綴られている。

リンはその文字を目で追って一字ずつ、しっかり読んでいった。


読み終えたとき、リンは例えようも無く嬉しさが込み上げてきて、笑っていた





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  Merry X'mas

  今夜六時、君を迎えにあがろう
  その時、首元にこの薔薇が輝いている事を願っている

  地下階段の柱の影で


           ―― From Your Partner

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